《〈釋殷墟甲骨文裏的“遠”“𤞷”(邇)及有關諸字〉導讀》日本語訳(一)

一、《釋殷墟甲骨文裏的“遠”“𤞷”(邇)及有關諸字》の主な内容

《釋殷墟甲骨文裏的“遠”“𤞷”(邇)及有關諸字》(以下「《遠邇》文」と呼ぶ)は、裘錫圭の甲骨文字考釈論文の中でも比較的早くに書かれたもの(文末の附記によれば、初稿は1967年で、1982年に《屯南》等の新出資料により書き改めたという)だが、現在でも甲骨文字考釈ないし古文字考釈全般の手本となるような著作であるといえる。

《遠邇》文で述べられている「遠」に関連する一連の字形は下のように分類できる*1

(図表略)

《遠邇》文は以下のようにいう。「⿳止衣又」「⿱衣又」はともに「袁」字の前身で、「⿳止衣又」形は「⿳又衣又」形が変化してできたものである。最も完全かつ原初の形である「⿳又衣又」形或いは「⿳爪衣又」形は、「両手で衣服を持って体に通す」形の図形式表意字で、すなわち「擐」字の表意初文である。「⿱衣又」はその略体である。「⿳又衣又」形の上部の「又」旁(「止」に変形している)は残しつつ下部の「又」旁が省略され、声符「〇(「圓」字の表意初文)」が加わって、「袁」字に変化した。「⿰彳⿱衣又」等の「彳」に従い「袁」のもろもろの異形を声符とする字は、「遠」字の異体字である。殷墟甲骨文中では、「袁」字は多く人名に用いられており、「遠」字はその本義、つまり遠近の「遠」に用いられている。

《遠邇》文で述べられている「邇」に関連する一連の字形には以下の数種がある。

(図表略)

《遠邇》文は以下のようにいう。「⿰⿱木土又」「⿱⿴𦥑木土」「⿱⿴𠬞木土」はみな「埶」字の変体で、樹蓺の「蓺」の表意初文である。「⿰⿱个土犬」「⿰⿱止土犬」と「⿳⿴𦥑木土犬」はみな「𤞷」字の異体である。「⿳⿴𦥑木土犬」形は卜辞では多く田猟地名に用いられており、それ以外の諸字は卜辞では、樹蓺の「蓺」、或いは遠邇の「邇」(しばしば「遠」と対になっている)、或いは設立の「設」に用いられている。

 

(二)へつづく

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*1:以下、処理された関連字形は、ほとんど以下から取り挙げた。《新甲骨文編》(劉釗、洪颺、張新俊編纂,福建人民出版社,2009年),97-98頁(「遠」字)、156頁(「埶」字)、556頁(「⿱⿱𦥑木⿱土犬」字、「⿰⿱止土犬」字)。《甲骨文字編》(李宗焜編著,中華書局,2012年),中册731-732頁(2427号「袁」字、2429号「遠」字)、中册501、502頁(1705号「埶」字、1706号「「埶𥄲」の「埶」の専字」)、中册557-558頁(1869号「邇」字)。